仙台城跡の学術調査に関する意見と要望


 仙台城本丸跡は、戦国時代末期および江戸時代の城郭遺跡として重要な価値をもっていますが、その大半が民有地(護国神社)と国有地であったことから、これまで本格的調査を実施することができなかったと聞いております。そうしたなかで、このたび仙台市当局が国庫補助をうけて本丸跡の総合学術調査に取り組むことになったことを大変喜んでおります。
 その総合調査の開始にあたって発足した貴委員会は、委員各位の専門的立場から指導助言する機関であると承っております。委員各位から適切なアドバイスがなされ、学術的総合調査として実り多い成果が出ることを期待しております。
 現在、仙台市当局は、この総合学術調査に先立ち、仙台城本丸跡の石垣修復工事を実施しており、また修復後の石垣の上に艮櫓を新築する計画を進めております。しかしながら私たちは、現在進行中の石垣修復工事や艮櫓の新築計画には、本丸跡の文化財としての価値を大きく損ねる問題があると考え、それぞれの事業を指導・助言をする機関である石垣修復工事専門委員会と艮櫓復元専門委員会に質問・要望書を提出し、両委員会において慎重な検討をするよう求めております。
 この石垣修復工事や艮櫓の新築計画は、これから実施される本丸跡の総合調査に密接な関係があります。私たちは、本丸跡の学術調査が十全な形で総合的になされることを期待しておりますので、その立場から貴委員会に対して、僭越ながら私たちの意見を申し述べ、以下の要望をさせて頂きます。その趣旨をお酌み取りくださり、より精度の高い総合調査とするために、指導委員会としての指導・助言のなかに反映させて頂けるよう、お願い申し上げます。

一、歴史を捏造する艮櫓の新築をやめさせてください

 市当局が新築予定の艮櫓については、昨年八月に解散された仙台城跡石垣修復等調査検討委員会において委員長や観光交流課長が、艮櫓の規模・形状について確かなことが分からないことを認めています。また文化財課による発掘調査によって、艮櫓は、市が新築予定の三期石垣ではなく二期石垣の上に存在していたことも判明しています。一方で仙台市長は、「できる限り史実に忠実に復元する」と発言しています(昨年一一月一四日の記者会見)。確かな規模や形状が分からず、建築位置も史実と異なっているのでいるのですから、市長発言に即せば、艮櫓は新築計画を断念すべきものであることは明らかです。しかし市当局は、今年六月、新たに艮櫓復元専門委員会を設置し、新築事業を進める意向を示しています。
 歴史的建造物復元に関して、文化庁は、@遺構が存在していること、A古い指図(設計図)があること、B写真があること、の三条件を示しています。これらの条件を満たせば、もとあった姿かたちでの復元が可能だからです。しかし艮櫓については、この「復元三条件」にまったく合致していません。つまり市が建設予定の艮櫓とは、極めて歴史的根拠の薄弱な現代の新規建造物にすぎないのです。しかし、仙台市は艮櫓の新築について、「復元事業」と標榜しています。これはあたかも、史実に即して「復元」されるかのような誤解を多くの市民に与えています。
 もしこの新築事業が実現されると、仙台市は、第一に、歴史を偽った建造物を本丸跡に建てるという誤り、第二に、歴史的根拠の薄弱な艮櫓の新築により本丸跡の歴史的景観全体を変造するという誤り、第三に、現代の新規建築物にすぎない建物を「復元」と称して事業を推進する、という三重の誤りを犯すことになります。これらはいずれも、市当局が進んで歴史を捏造する行為だと言わざるを得ません。しかも史実にもとづかない艮櫓の新築が、本丸跡がもつ文化財として価値を大きく損ねることは明白です。
 仙台城本丸跡の学術調査は、遺構の確認等を含めて、本丸跡の文化財としての価値を確認するために実施されます。しかも国庫補助を受けての調査ですので、単に仙台市民のためだけではなく、日本の宝として、末永く後世にまで保存・継承するために行われるものにほかなりません。
こうした点に鑑みると、本丸跡の文化財的価値を大きく損ねる艮櫓の新築は、今回の総合学術調査の最終的目的から大きく逸脱した事業だといえます。
 貴委員会におかれては、本丸跡が将来にわたって健全な姿で保存されていくために、ぜひ艮櫓の新築計画を白紙撤回するよう、市当局に勧告されることを、お願い申し上げます。

二、艮櫓新築による一期石垣遺構の破壊をやめさせてください

 艮櫓の新築は「歴史の捏造」であるというにとどまらず、現存する貴重な文化財を破壊することも明白です。市当局の計画によれば、艮櫓を支えるために、直径二メートルにも及ぶ巨大なパイルを地中深く六本も打ち込むことになっています。このパイルが、「小段」や「玉石層」など一期石垣の背面遺構部分を破壊することが明らかになっています。
 石垣遺構は、単に石積み部分だけではなく、背面の裏込めや排水機構などを含めた全体構造として保存されるべきものです。石垣修復工事専門委員会では、そのような見地から修復計画を検討しています。しかし艮櫓復元検討委員会では、基礎パイルが一期石垣の背面遺構を破壊することに、まったく無頓着なまま新築計画を推進しようとしています。一方では石垣がもつ文化財としての価値を保全しようとしているにもかかわらず、他方ではその貴重な文化財を破壊する計画が平然として進められるという、極めて整合性のない状態で石垣修復と艮櫓新築がなされようとしているのです。
 貴委員会が指導される本丸跡の遺構調査は、遺構の全体を把握し保護するためのものですので、一期石垣の背面遺構を破壊する行為を見逃すべきではありません。貴重な文化財を保護するために、こうした破壊行為をやめるよう、貴委員会のご見識をもって強く勧告されることをお願い申し上げます。

三、一期石垣遺構の全体像を把握する調査を実施してください

 仙台市経済局観光交流課の依頼を受けて、東北大学東北アジア研究センターの佐藤源之教授が二〇〇〇年七月と一〇月に、本丸北東部分の地中レーダー探査を実施しました。その結果、佐藤教授は、「盛土に使われている土質とは異なる物質が存在している可能性が高いと考えられる」(一〇月報告書)と報告書で指摘されています。この意味について佐藤教授に問い合わせたところ、現在発掘された一期石垣以外にも一期石垣の遺構が存在する可能性があるとのことでした。もちろん、「レーダ特有の虚像を考慮する必要がある」(七月報告書)とも指摘されていますが、調査の精度をあげて再測定すれば、「地下構造をより精密に知ることの有用性が極めて高い」(一〇月報告書)と、再測定することを市当局に提言しています。
 そこで私たちは市当局に、さらに精度の高いレーダー探査を実施して一期石垣遺構の存否の確認をするよう求めましたが、本年七月一一日付けの市当局からの回答は次のようなものでした。
  「艮櫓基礎部を施行するに先立ち、その影響範囲の発掘調査を行うことから、   今のところ地中レーダー計測は予定しておりません。」
    (平成一三年七月一一日「仙台城の石垣保存と艮櫓建築に関する質問と要望について(回答)」より)
 艮櫓基礎部、すなわち六本の巨大なパイルを打ち込む部分だけが調査対象なので、その周辺部分は調査しない、という誠に驚くべき回答でした。こうした回答の背景には、周辺遺構の確認調査は、石垣修復工事を行う建設局公園課あるいは艮櫓新築事業を担当する経済局観光交流課の所管ではないということがあるようですが、そうであるならば、一期石垣遺構の学術調査を行う責任は教育局文化財課にあるということになります。
 今回の学術調査は本丸遺構の確認ですので、とうぜん、この一期石垣遺構も調査の対象になるものと理解しております。もし、これを調査対象から除外するということになれば、本丸跡の学術調査それ自体が極めて不十分なものとなり、文化庁も納得しないのではないでしょうか。
 現在、石垣修復工事によって土面が掘り下げられていますので調査は実施しやすい状態にあります。埋め戻したあとの調査はかなり困難だと思われますので、埋め戻しがなされる以前に調査を実施することは極めて合理的な選択であると同時に、一期石垣遺構の全体像を把握する最大のチャンスであることは誰の目にも明らかです。しかも、単にレーダー探査によるだけではなく、実際の発掘によって一期石垣遺構の存否の確認を行うことが重要です。
 今回の仙台城跡の調査は国庫補助を受けての重要な調査ですので、悔いのない万全な調査とすることが求められております。貴委員会は、文化財課が実施する仙台城跡の調査を指導・助言する委員会でありますので、公園課によって埋め戻しがなされる以前に、一期石垣遺構の全面調査を実施するよう、文化財課に強く指導・助言されることをお願い致します。

四、国指定史跡をめざすために、国の文化審議会や文化庁の指導を受けて仙  台城跡の整備を進めてください

 金沢城は国指定史跡ではありませんが、金沢市は国指定を受けることを前提に復元事業を進めており、その復元計画については文部科学省の文化審議会に参考としてかけられたと聞き及んでいます。またそのさい、文化審議会からは国指定に準じるような復元をしてほしいとの指導・助言がなされたとも聞いております。国指定史跡をめざす自治体として、文化審議会や文化庁の指導・助言を受けながら復元事業を進めることは、極めて効果的であり、かつ説得力のある方法だと理解できます。
 仙台市当局も、仙台城跡について国指定史跡をめざすと表明しています。また市の文化財保護審議会でも国指定をめざすように勧告しています。したがって現在、市当局が計画している「青葉山公園整備事業」についても、金沢市にならって文化審議会や文化庁の指導・助言を受けながら進めることが、もっとも適切な方法だと考えられます。
 仙台市はこの「青葉山公園整備事業」の一環として石垣修復工事や艮櫓の新築事業を進めているとのことですが、前述のように艮櫓は歴史的根拠のない現代の新築物ですし、その艮櫓が全国的にも極めて貴重な一期石垣遺構を破壊することも判明しています。
 しかし、問題はそれだけではありません。この「青葉山公園整備事業」によると、観光客のアクセスを容易にするために、追廻地区と本丸跡をつなぐ場所に巨大なエレベーターを設置することになっています。仙台市が公表しているパンフレットをみると、その設置場所は、巽櫓の遺構が存在する場所になっています。もしそうであるのならば、仙台市当局は一期石垣遺構だけではなく、巽櫓の遺構も破壊する歴史的暴挙を行うことになります。
 このように、いくつもの史跡を破壊したり、建造物を捏造しながら進められる「整備事業」は、はたして国指定史跡をめざすという方針と矛盾しないのでしょうか。仙台市当局みずからが貴重な歴史的文化財を破壊して出来上がった「青葉山公園」を、文化審議会や文化庁は、国指定史跡として認定することがありえるのでしょうか。
 このような素朴な疑念を払拭し、また健全なる文化財行政のもとに国指定史跡を実現することができるように、貴委員会におかれては、仙台市も金沢市の先例にならい、文化審議会や文化庁の指導・助言を受けながら「青葉山公園整備事業」を進めるよう、仙台市当局に強く勧告してくださることをお願い申し上げます。

 
 以上、私たちは、石垣修復工事や艮櫓新築事業との関連で、仙台城本丸跡の貴重な文化財が破壊され、歴史的建造物が捏造され、さらに歴史的景観が変造されることを強く憂慮しております。
 まだ多くの市民は、現在行われている「青葉山公園整備事業」が歴史を捏造し文化財を破壊する行為だという事実を知りません。しかし、その事実を知った市民は愕然とし、仙台市民であることが恥ずかしいという思いと同時に、こうした行為を平然と行う市当局に怒りを抱いております。私たちは今後も、こうした事実を広く市民に訴えていきます。
 私たちは、仙台城跡調査指導委員会の発足にあたり、仙台市において健全な文化財行政が行われるよう、貴委員会が市当局に対して、賢明かつ強力なる指導力を発揮してくださること心より期待しております。
 つきましては、この意見・要望書をお取り上げくださり、委員会の審議に反映して頂けますことを強く希望致します。また、この意見・要望書に対する貴委員会のご見解を承りたく存じますので、各項目に即して具体的なご回答を、できるだけ早くお寄せ頂けますよう、お願い申し上げます。 
                            以上

 


    二〇〇一年一〇月一七日

       


         仙台城の石垣を守る会
             代表世話人  平川 新(東北大学教授)
               世話人  大藤 修(東北大学教授)
                同   菊池勇夫(宮城学院女子大学教授)
                同   菊池慶子(聖和学園短期
大学助教授)
                同   鯨井千佐登(宮城工業高等専門学校教授)
                同   今野 眞(仙台電波高等専門学校教授)
                同   斎藤善之(東北学院大学助教授)
                同   ジョン・F・モリス(宮城学院女子大学教授)
                同   高橋美貴(東北大学助教授)
                同   千葉正樹(東北大学助手)
                同   柳原敏昭(東北大学助教授)


 仙台城跡調査指導委員会
委員長及び委員 各位

 


TOSHIAKI Yanagihara tyana@sal.tohoku.ac.jp