9月5日午前9時30分から第4回石垣修復工事専門委員会が開催されました。議論は、新補石材の形状と基礎部分の積み方に集中しました。以下は、その議論の要点です。
前回の第3回委員会で、新補石材は旧材と同じ形状で復元するということでまとまりましたので、これで修復の基本方針が確定したと思っていたのですが、今回の公園課の提案は意外な内容になっていました。
配布資料では確かに、新補石材は「破損石材の控え形状に近づける」や「破損石材の控え長に近づける」という項目があるのですが、「破損石材の石積段での平均値を確保する」という一項が付け加えられていたのです。
控え(石の奥行き)の長さを平均値に近づけるというのは、旧材の形状に近づけるという考え方と同じではありません。旧材の形状が平均値より大きいものは大きいままに、小さいものは平均値にということですので、相変わらず新補石材は可能な限り大きくしたいという考え方が根底にあります。文化財としての価値を守るために新補石材は旧材の形状に近づけるということだったはずなのですが、ここでは平均値という数字が新補石材を大きくするための根拠として持ち出されてきているのです。前回委員会での合意事項を事実上骨抜きにする方針だといってよいでしょう。
こうした公園課の説明のあと、前回委員会に欠席していた柳沢栄司委員会から、石は控えが長いほうが絶対的に安定している、新補石材を破損石材の控え長に近づけるというのは力学的にはまずい、ナンセンスだとの発言がありました。新補石材は長ければ長いほどよいということです。前回欠席していたとはいえ、合意事項をくつがえす発言でした。さすがにこれに対しては、北垣聡一郎委員から、オリジナルを大事にすることが基本だということで前回まとまったとの指摘があり、また新谷洋二委員長からも文化財性と安全性を考慮しなければならないとの説明がありました。
柳沢委員は、歴史性を尊重するというのは分かるとしつつも、極端に短いものまで真似る必要はないと再度強調しました。新谷委員長は、私も長いほうがよいと思う、石工棟梁の意見などをうけて、公園課の方針では平均値よりも短いようなものは平均値に近づけるということになっているとの説明がありました。この委員長の発言は、公園課の方針を議論もなく踏襲したものでしたので、驚きました。
これに関連して北垣委員が、D面の基礎から2〜3段の石ズラ(表面)と跡ズラ(控え面)の数値を出してほしいと求めました。公園課からは旧材の表面長と控え面長の平均比率は55%であるとの説明がありましたので、北垣委員はこの割合が伝統技術であることを確認したいと強調しました。旧材は尻を大きく削り込んでいるということの再確認です。
この点について当日配布された資料をみると、最小値は約17%、最大値は約86%になっています。これらの平均値が55%ということですが、この資料をみて驚いたのは、当初計画されていた新補石材の多きさは、70%から85%とされていたことです。新谷委員長は、85%というのは直方体に見えると述べていましたが、まさしくこの資料は、旧材よりもはるかに大きい直方体的な新補石材を使う予定であったことを数値で示してくれました。その意味で北垣委員の発言は、文化財的価値を守るとはどういうことかに注意を喚起したものだといえます。
新谷委員長からは、55%というのは長さの平均値であり、面積でいうと30%程度になる、控えの短いものは平均値にすることでよいと思うとの発言がありました。石の尻部は小さくなるのだからいいではないかという趣旨でしょう。しかしこれに対して浅田秋江委員から、短いから平均値でということでは納得しずらい、何センチの石がどの程度破損しているのかデータを出してほしい、短いものがどのくらい破損しているのかが分からないと議論は進まない、という指摘がありました。
浅田委員の指摘は、たいへん勘どころをおさえたものでした。小さいから危ない、大きいから強いなどという印象的な議論はするな、データにもとづいて判断したらどうだということでしょう。確かにその通りです。特に新谷委員長は、短いと危ないという発言をしきりにします。これを何度も聞かされると、やっぱり危ないのかなと思うことでしょう。しかし、これがデータで示されたことはありません。事務局からは、平均値より低い石の破損率は6〜7割、大きい石の破損率は3〜4割という数字が返ってきましたが、浅田委員は、そういう大ざっぱな数字ではダメだ、微妙な問題があるのだから定量的な議論をしないと現代工法と伝統工法はマッチングしないと苦言を呈しました。
確かに破損といっても、いくつかの形態があります。この日の配布資料では、1)破断、2)亀裂(クラック)、3)剥離、4)石材産出前(石山からの切出し前)の傷の風化、の四種類に区分しています。事務局が示した6〜7割とか3〜4割といった破損率というのは、おそらくこれらをひっくるめた数字でしょう。しかし破損の仕方にもいろいろあるということが事務局資料にもあるのですから、破損形態ごとにデータを示して頂く必要がありますね。そうでないと、単に総数で、平均値より低い石の破損率が高いと言われても、納得できるものではありません。大きい石にはどのような破損形態が多いのか、小さい石ではどうなのか、といったデータが欲しいところです。
建設局長は、一石ごとのデータがあるので資料は次回提出すると約束しましたが、こうした詳細なデータを期待したいと思います。
なお、鈴木啓委員から、修復にあたっては、仙台城の石組み技術の特徴、つまり石材の規模・形状、木っ端石の利用、階段状石列などを損なわないようにすることが大事、これらの個性を大事にしなければいけないとの指摘がありました。大きいほうが丈夫だなどという観点から修復に臨むと、仙台城石垣の個性が失われてしまうという懸念です。文化財としての価値をどこに見据えるかという点で、ぜひともこの視点を委員全員に共有して頂きたいものです。
鈴木委員から、すでに積み上げた直方体の新補石材について、根石の上2段目まではすでに埋められているのでやむを得ないと思うが、4段目5段目についてはどう扱うのかという問題が提起されました。建設局長からは、前回の委員会で、5段目までは基礎を強固にするためにこれまで通り、6段目以上は伝統工法を重視して旧材の形状でということになったと理解していた、との返答がありました。五味委員は、先が細いと欠損するので、基礎部だけではなく上部にも補強は必要だと発言し、柳沢委員は下部の3分の1は支持力を強めるためにできるだけ加工せず厚いほどよいと、これをフォローしました。また新谷委員長は、何段までがよいかは水掛け論になるとしつつも、自分としては9段目あたりまでは補強したい、しかし文化財の問題があるので、5段目までは認めてほしいと、足して2で割るような発言をしていました。
前回の委員会で鈴木委員は、すでに埋め戻された2、3段目までは仕方がない、しかし上の部分については旧来の形状通りにやってほしいと発言しています。もちろん新谷委員長は下部は大きいほうがよいと再三発言していましたが、何段目までとするかは結論が出ていなかったのです。しかし、5段目まではそのままということになりそうだったので、鈴木委員は改めて問題を提起したものと思われます。
新谷委員長や柳沢・五味委員は、基礎は大きいほうがよいと考えていることがよく分かるのですが、ここでも浅田委員は冷静でした。3段目までの破損状況と4、5段目の破損状況を確認することが必要だ、これだけ破損しているから補強をということでないと納得してもらえないではないか、との発言でした。大きいほうがよいとばかり言ってもだめで、なぜ大きくしたほうがよいのかデータを示しなさいということです。もちろんデータだけに依拠して石材の大きさを決めるのは文化財的価値を損うという問題がありますが、大きくすることの可否の判断材料にはなります。文化財的価値と工学的考え方の落としどころを探るにしても、データにもとづいて分かりやすくしたほうがよいというのが浅田委員の意見でしょう。
しかしそれにもかかわらず、新谷委員長はその後も、私は9段目くらいまでは大きくしたいが、そうもいかないので5段目までは認めてほしいと、かなり強引でした。そこで鈴木委員は、よそがこうだから仙台城でもというのではなく、仙台城の特徴を壊さないようにしないといけない、もとの形を変えることには抵抗がある、もし3、4段目も大きくするというのであれば報告書にその理由をちゃんと書いてほしと注文をつけました。また北垣委員からは、これはD面のことであって、A・B面も同列にやるということのないようにとの強い要望が出されました。
新補石材の平均値の問題を判断するには詳細なデータが必要だと、先に浅田委員から指摘があったのですが、新谷委員長は改めてこの問題を取り上げ、了解を頂きたいと強引でした。しかし、結論を急ぐ委員長に対して浅田委員は、平均値にすると破損しないのか?と、ストレートな質問を浴びせました。
新谷委員長は、それは分からないと答えています。大きいほうが強いと繰り返し言っておきながら、破損しないかどうかは分からないというのは、どういうことでしょうか。困った委員長は、新補石材の基準が決まらないと現場は一か月遊んでしまう、工事をやるのはいまが一番いい時期だと、問題をすり替えてしまいました。
確かに石積みストップのために工期は大幅に遅れていますし、現場も風雨で風化が進んでいるかもしれません。しかしだから新補石材を大きくして工事を進める、というのは理由になりませんし関係がありません。委員長は、石工の棟梁が短いのは気になると言っているとも述べましたが、そうであればなおさら、ちゃんとした議論をして合理的な判断をするべきでしょう。遅れているから大きくさせろでは、筋の通った議論にならないのではないでしょうか。
新谷委員長は、交通事故にあっているのに病院に運ばないで、どっちがよいか小田原評定しているようなものだと、とんでもないたとえ話を持ち出していました。しかしそもそも、大きい骨に変えてしまえと乱暴な手術を行ったのは市当局でした。文化財保護のあり方としてはそれが間違っていたということで、現在見直しをしているということをお忘れのようです。
苦肉の策として委員長は、一ヶ月後に修正することも可能なので、とりあえず6〜7段目は積ませてほしいと必死でした。どうやら工事再開というのが委員長に与えられた至上命題だったようです。
ここで浅田委員が、初めて委員会に陪席した石工棟梁に、それでやっていけるかと尋ねました。D面はそれでよいが、B面の工事に取りかかり平らな状態で延ばしていく必要があるとの答えがありました。新谷委員長は、B面の基礎も三段目までは同じ形でやりたいということですねと棟梁に念を押していましたが、浅田委員は事務局に対して、各段ごとのデータを出せないかと求めました。やはりデータに基づく判断が大事だということでしょう。
建設局長からは、石積み工事を再開しても次回委員会までには6段目までしか進まないだろう、もし次回委員会で、新補石材の控え長を平均値にまでもっていくのはまずいということになれば、その段階で直してもやむを得ないという発言がありました。工事を再開させても委員会の意見は尊重するという姿勢です。折り合いというのはそうやって付けていくものかもしれません。
しかし新谷委員長はその後も、B面についても三段目までの基礎はD面と同じように進めたいと主張しますので、北垣委員はB面については資料を検討したうえでやるのが筋だと反論しました。浅田委員や北垣委員が再三にわたって、納得のいくようにデータを検討しましょうと提案しているにもかかわらず、いったい委員長のこの強引さは、どう理解すればよいのでしょうか。
以上のように、控え長の平均値の問題とB面の基礎の問題については結論が出ませんでしたので、次回委員会に持ち越しということになりました。
階段状石列の役割について公園課から、発掘調査からの評価と工学的な評価が出され、おおむね原状に即して復元するという方針が示されました。これは委員会の了解を得ました。
排水施設について公園課から、盛り土内に3段にわたって配置すること(一番下をいれると4段のようですが)、切り土と盛り土の境界には水道ができやすいので連続した面暗渠を設置することなどが提案されました。
これは前の排水工に忠実なのかという浅田委員の質問に対して、形は違うというのが公園課の答えでしたので、浅田委員は伝統工法との関係はどうなのかと問いかけました。北垣委員も各面ごとにではなく一律の構造になっている、発掘状況からみてこういう形になるのか、一期石垣の排水工は前回不要ということになったはずだが、と疑問が出されました。また五味委員からも、こういう排水工は全国に例がない、亜炭層の所には必要だろうが、という発言がありましたが、それ以外はよく聞き取れませんでした。鈴木委員は、排水工は遺構なので尊重されなければならない、なぜ昔のままの構造ではだめなのかと質問しました。
これらに対して公園課は、面暗渠が排水工だったと思われる、面的には二段から三段にわたって排水工が入っていたという事実がある、それを踏襲して三段ということにした、裏込めの中を水が流れており地山からの水の逃げ道も必要ということで、こうした排水工にしたという回答がありました。
柳沢委員からは、地山の水が回り込んできている、三期石垣の排水状況はあまりよくないので排水施設は長期間もつものと作ったほうがよいとの意見がありました。続けて新谷委員長から、金沢城では玉石を入れた排水工が出てきた、仙台城ではどこまで排水路を補強すればよいのかという問題があるが、何らかのものは必要ではないかとの発言がありました。
これに対して浅田委員は、昔の排水路はどういう役目をはたしのか、どういう経路であるのかという解説がない、まったく現代工法でやっているような感じだ、伝統工法で役に立ったのかもしれないので、時間をかけて検討することが必要だ、と述べています。鈴木委員からは、B面の暗渠は復元してほしいという要望が出されました。
しかし、このあたりで時間切れとなり、詳しい検討は次回に継続ということになりました。
ところで一期石垣の排水工のことですが、北垣委員が指摘したように、前回の委員会では一致して不要とされました。しかし今回の公園課の説明にも、一期石垣の所に排水工を設置するというのがありましたし、配布資料にある「石列の復元配置標準断面図」にも、否定された「玉栗石による排水工」と同様のものが書き込まれています。どういうことなのでしょうか。これもいつの間にか復活したのでしょうか。
油断をするとすぐに揺り戻しがくる、というのが今回の委員会の率直な印象でした。文化財保護を第一に、歴史性を大事に、という基本方針で一致したにもかかわらず、なぜこうしたことになるのでしょうか。もちろん安全性との兼ね合いの問題があることは事実ですが、浅田委員が的確に指摘していたように、伝統工法のはたした役割というのを、データにもとづいてもっと検討し、そのうえで適正な補強策について考えるべきでしょう。時間がないからとか、現場を遊ばせるわけにはいかないというようなことは、市当局が言うのならともかく、それを代弁して委員長が言うことではありません。委員の方々はそれぞれの学識にもとづいて委嘱されているのですから、市当局の思惑からは離れて、中立かつ公正に真摯な議論ができる場にして頂きたいものです。
それにしても今回の委員会では、新谷委員長の強引さが目立ちました。他の委員が発言をすると、すぐに委員長は自説を延々と話すということの繰り返しでした。しかもこれまでの委員会で行った話の繰り返しと自慢話が多く、聞いていて大変疲れました。おそらく委員会の開催時間のうち、事務局の説明部分を除くと委員長の発言時間が3分の2くらいを占めているのではないでしょうか。測定したわけではありませんので正確ではありませんが、委員長の独演会なのかという印象を抱いた傍聴人は少なからずいました。早く結論を出したいということをしきりに言いますが、そうであれば冗長な話は控えて、もう少し効率的な議事運営を心がけて頂きたいと思います。
もうひとつ書きとめておきたいことは、今回の解体作業のさいに集積したデータの膨大さと貴重さという点です。一個一個の石や内部構造を丹念に測定・観察したデータがあるということですから、伝統的石垣の構造を解明する宝の山だと思われます。この点については、公園課や文化財課、そして請負企業や石工さんたちに敬意を評したいと思います。詳細に分析すれば、博士論文になるくらいの価値があるのではないでしょうか。ぜひ担当された方々の成果にして頂きたいものです。
そして、これらのデータと写真は、可能な限り詳細に、今後出されるであろう報告書に掲載して頂きたいと希望します。それによって石垣の研究は飛躍的に進み、今後各地で行われる石垣修復工事の指針にもなるのではないでしょうか。「仙台方式」として評価されるような石垣修復工事になることを期待しています。