第3回 石垣修復工事専門委員会

(01年8月10日)

傍聴レポート
                            (文責:平川 新)


修復は文化財課と一緒に
 新補石材は元の形状で復元を
  第3回石垣委員会で合意


 委員会も第3回を迎えて、大きな山場にさしかかりました。この会合では、文化財課と協議しながら修復工事を進めること、新補石材はもとの形状とすることなど、これまで公園課が行ってきた事業の進め方を大きく見直す内容が打ち出されました。
 以下、各委員の発言のポイントをご紹介しておきます。なお、柳沢委員は欠席でした。


今後は文化財課と協力して修復を

◇北垣聡一郎委員
 ・きょうの午前中、現場見学をし、公園課や文化財課、石工の棟梁と話ができたのは大変よかった。これまでの状況や今後のことを考えると、公園課と文化財課、棟梁が協力しながら進めて頂きたい。
 ・3期石垣の原状はオリジナルで優れた文化財である。それをふまえると、石垣D面については新補石材の使用量が多いのではないか。
 ・新補石材にしなければならない理由、しなくてもよい理由がよく分かるように、石垣D面の破損石材の調査カードを作ってほしい。このデータを最終的な報告書に盛り込んでほしい。

 *これまで、解体工事は文化財課、修復工事は公園課という縦割り行政で行われてきました。文化財の修復工事であるにもかかわらず、文化財課が関与できないという異常な体制だったのです。公園課単独で進めてきたことが、文化財的価値の軽視につながっていました。北垣委員の発言は、この点への懸念を表明したものでしょう。
 これに対して加藤秀兵建設局長は、公園課と文化財課の調整の場を設けること、この委員会の意見はできるだけ早急に現場に反映できるようにすること、調査カードを作成し報告書に盛り込むこと、を確認しました。
 文化財課も公園課と対等の立場で、今後の修復工事に関与することができるようになったわけです。ひとまずは文化財行政のあり方として健全な姿になったといえますが、逆に文化財課は、石垣の貴重な文化財的価値を損なわないように工事を監督する大きな責任を負ったことにもなります。決して公園課に遠慮することのないよう、大いに期待したいと思います。

 過去の現地指導を見直し

 続いて、配布資料にある「これまでの現地指導会について」に関して、北垣委員から次のような指摘がありました。

◇北垣委員
・ここにあげられている現地指導会というのは、きょうの指導会とは性格が違う。3人の名前(五味、浅田、柳沢)があげられているが、これらは個人的なアドバイスではないか。それをあたかも公式に了承されたかのような形で出すのはどうか。ここにある「検討課題」というのは、これからこの委員会で検討すべきことではないか。これでは、ここに名前のあがっている先生方に一方的に責任を押しつけているようにみえる。それは先生方に対して失礼なことではないか。陳謝して頂いたほうがよいのではないか。

 *資料にある現地指導会というのは、下記の3回のものです。
    第1回 平成12年12月21日・22日 五味氏、浅田氏、柳沢氏
    第2回 平成13年3月29日・30日  五味氏、浅田氏、柳沢氏  
    第3回 平成13年5月21日〜23日  五味氏、浅田氏、柳沢氏
 これらの指導会は、昨年8月に旧委員会が解散されたのちに行われていたものでした。公的な委員としての立場での指導ではなく、個人的な指導とみなされるべきものです。しかしここで受けた指導について、配布資料ではすでに公的に確定したかのごとく書いてありますので、それは白紙に戻して、この委員会でちゃんと検討して結論を出すべきだと北垣委員は指摘されたのでした。
これに対して加藤建設局長は、旧委員会で、専門家の指導を受けながらやるようにという提言があったので、不明な点などについて関連の先生方にご助言を頂いてきた、これを現場で再現することについては市の責任でやっている、必ずしも指導した先生方の責任とはならない、今後は当委員会の意見を聞きながら、一部修正があるとすれば修正しながら進めたい、と回答しました。
 もはや市は、過去の個人的なアドバイスをたてに、現工法を正当化することはできなくなったわけです。

石垣の技術史的意義について

 鈴木委員から、石垣の技術史的意義について発言がありました。

◇鈴木啓委員
 ・新補石材について、石垣の技術史の発達という観点から意見を述べたい。自然石を積む技術は元和期、1615年くらいから合理化が進む。合理化というのは石材の規格化、均質化、軽量化のこと。同時に、出隅を非常に補強するようになり、巨石を使って算木積みで頑丈にするようになる。出隅というのは建築でいえば柱だ。柱を何本も立て、柱と柱の間を壁と見立て、その長さは50mは越えない。江戸城本丸の南面の高い石垣も入隅と出隅を繰り返している。柱と柱の間の石は、上は4分の1程度に軽くなっている。そういう形で全体を構成している。規格化、均質化、軽量化ということで発達してきており、仙台城の3期の石垣はまさにそれで、自然石から、うちこみはぎになって、きりこみはぎの段階だ。
 そういうなかで、あの長い新補石材をアトランダムに入れていくと、荷重には強いかもしれないが、振動がきて横に揺さぶられたときに、軽い石と重い石は同じように反応はしない。それで変形が生じるのではないかと非常に心配される。一番大事なことは振動に対する強度だ。大量に自動車が通ることや宮城県沖地震のようなことなど、振動を第一に考えると、均質であることが一番の条件ではないか。やはりあの積み方はまずい。重量に対する配慮はしたようだが、現地で聞くとその話ばかりで、振動に対する配慮が欠けているのではないか。

◇五味盛重委員
 ・反論というわけではないが、3期の石垣には結構長い石もある。力石は1割近くはいっている。短い石ばかりだと、むしろ地震に弱い。はらみ出しを防ぐには、少し長めのものがよい。高石垣は下のほうは長い。

 *鈴木委員と五味委員の論争になりました。長い新補石材と短い旧材が入り交じりで積まれると力学反応が異なって変形するのではないかという鈴木委員に対して、五味委員は、3期石垣には長い力石も入っており、基礎部の石も長いと指摘しています。
 第2回委員会でも五味委員は同様の発言をしています。しかしこの指摘はおかしいですね。基礎部や力石に長い石材を使っているのであれば、その部分を忠実に復元すればよいことです。これらに長いものを使っているから、ほかの部分にもたっぷりと直方体の新補石材を使ってもよいということにはなりません。
 新谷委員長はここで、現代工学の立場からはどうだと浅田委員に発言を求めました。

◇浅田秋江委員
 ・振動の問題は簡単にはわかりにくい。砂の場合は液状化があり、揃ったものは危ない。だが石垣は液状化現象云々とは違う。現代工学といえども、振動時に石垣がどう動くかは全く分からない。
◇北垣委員
 ・いま土木の専門家から一定の回答を与えて頂いた。そういうなかで話を最終的には詰めていかなければいけない問題だ。


新補石材の使い方は再検討を

 新補石材の扱いをどうするか、たいへん大きな問題です。今回も重要な議論になりました。

◇北垣委員
 ・D面の原状は、控えの長さなど、たいへんバランスがとれている。だが今回、基礎部には直方体の新補石材が使われている。前回に紹介したように、石工棟梁からは基礎から3段目程度までが技術的に一番気を使うところだと聞いている。現在積み上げは5段目のようだが、新補石材の長さは1.6mから1.7m程度で構成されている。ところが、旧材は最大のものでも1m50程度だろう。やはり新補材は相当長い。長い理由は公園課から報告が出ているが、今後、A面以下に、どういう場所にどういう新補材を使おうとしているのか?
 A面C面などは地形が非常に悪い。だが崩れずに原状を保っていたということが大切。これをオリジナルな文化財としての基準にしなければならない。そこから強度の問題として、どの程度プラスしなければいけないのか、しなくてもすむのかを議論しておく必要がある。
◇新谷委員長
 ・新補石材を取り替えるかどうかは、破損・老化の程度で判断している。新補石材をいれるときに、前と同じ形にすべきなのか、それとも今やっているように控えを長くした格好にしておくのかという点が議論になっている。
 ・新補材は長いと言われているが、私がはかってみると、旧材はだいたい150cmくらい。新補材は165cmくらいで15〜20cmの差がある。
 ・鈴木委員の、上からの荷重に対して大きくすることは意味があるが、振動のときにどうなるかという意見に対して、浅田委員はよく分からないと言われた。ここらあたりが工学的にきちっとした形で計算できない。
 ・仙台城では裏込めと築石がうまくかんでいるが、合成体としての機能が解明できていない。だが概算で計算をすると、石が大きくて均質であったほうがいいのではないかという話が出てくるが、実際は石がいろいろと違っている。
 ・下の石は全部大きくして柱石にしたほうが、沈下・振動・荷重に対してはもつだろう。だが文化財である以上、古い石で保っている石はそのまま使わなければいけない。できるだけ伝統的にそれを守っていきたいが、そこでチグハグになるので困る。
 ・概算でいうと控えを長くし、平面を広くしたほうがいいといえるが、ではどこまでやればいいかという点に一番の問題がある。
◇鈴木委員
 ・技術史的には規格化、均質化、軽量化できているのが歴史だ。このバランスを崩すということは簡単に許されるわけがない。我々の段階で勝手なことをすることは許されない。
 ・しかし安全は第一に考えなければならない。何よりも重量に対してどう対応するのか。下から2、3段が大事なのだといわれるので、そこは大事だからやらなければいけないなと思っている。現在5段まで積んでいるので、もうこれで重量に対してはいいだろう。地盤は強化された。ここから上は、宝ものだから忠実に再現する。300年もたせるもっともよい使いみちだ。
 ・関東大震災のようなものがきたら、仕方がないのでないか。そこでまた修理をすればよい。そう考えないと際限がない。
 ・初めていうが、埋まった部分は仕方がない。しかし見える部分についてはしっかりやろうじゃないか。
◇浅田委員
 ・地震に関してはっきり分かっているのは、300年くずれなかったいうこと。そこで安全率が決められている。だからそういう構造体にすれば300年はもつ。ただ盛り土の風化などがあるのでその点はこれから一緒に考えたい。石垣・裏込めに関しては、今までもった構造体にすべきだ。地震のときにどうのこうのという議論をしても絶対に分からない。
◇新谷委員長
 ・それに近い話になるが、300年もった構造体は、ある程度作れる。工学は既知の事実には対処できる。だが未知の問題に対しては分からない。技術の問題は経験的なもの。経験は細々と一部にしかない。知識をもっただけでは作れない。昔通りの図面があっても昔通りの能力を発揮できるのか。
 ・どこが弱くて、どこが不完全か、それを我々がチェックする。その一つがいま浅田先生が言われた土だ。
 ・伝統技術をできるだけ守りながら、問題点を現代工学で安全のために補っていくという考え方は、この委員会ではほぼ理解できている。五十歩百歩ならば昔通りやっていくという話は出てくる。
◇北垣委員
 ・文化財を原状で保つためには、新補石材を減らすことが必要。使えないとされた石のなかから、再度使える石はないのか、大至急検討してほしい。とくにD面について委員会に報告してほしい。
◇鈴木委員
 ・これから積む部分は、新補石材も規模形状ともに、できるだけ元のようにしてほしい。 ・すでにやった地下部分は仕方がない。上の部分はもとの形状に近づけて全体として調和のとれた形にしてほしい。
◇北垣委員
 ・新補石材はできるだけ旧材に戻し、旧材には傷をつけてはいけない。でないと文化財にならない。

意外に強い基礎地盤ーどんな工夫をしたのか

◇浅田委員
 ・阪神大震災で脅かされすぎている。地震があればレベルアップする。仙台は頻繁に地震があった。だから仙台は体質が強くなっている。仙台城では伊達さんも設計基準をあげて、だから300年もったのではないか。
 ・仙台城は石垣と裏込めが一体の構造体。他のお城と比べてどういう特徴があるのかを検討してほしい。そうすれば、なぜ地震に強いのかがわかるのではないか。
◇北垣委員
 ・浅田委員の話はありがたい。石組みのバランスは新補石材を使った場合も崩してはいけない。
 ・二本松や岸和田城では、根石を固定するために直方体の石を並べて、その上に同じ勾配で根石を並べている。基礎地盤の上に根石をおくのか、仙台が今やっているように根石の上に基礎地盤を作るのか、これは意味がまるで違う。
◇新谷委員長
 ・下場に直方体をおくのは上の荷重を分散させるにはよいが、下の基礎地盤に対しては、そうした重いものをおいてよいのだろうか。基礎地盤は本当に大丈夫なのか。
◇鈴木委員
 ・二本松は地盤が弱いので安定地盤までおろして基礎地盤とした。
◇浅田委員
 ・ここもローム層だから同じだ。
◇新谷委員長
 ・石垣がはらむのは、沈下しないで前面に出てくるからだ。地盤が弱いと、はらむ前に沈下する。仙台は地盤が弱いといわれながら、はらんだ。結構もったではないか。
◇五味委員
 ・B面は地盤が相当下がっているのではないかと思っていたが、実測値では下がっていなかった。相当な工事をやったのではないか。未だにさがってない。
◇浅田委員
 ・5−11の図では5mの盛り土となっている。これは相当突き固めたのではないか。
◇新谷委員長
 ・何か細工をしているのではないか。そうでないともっと沈下しているはず。
◇五味委員
 ・この部分は相当思い切った土木工事をやっている。
◇新谷委員長
 ・今回、基礎地盤については、徹底的にやらなかった(調べなかった)
◇北垣委員
 ・A面は積み直しをしている可能性がある。これまでの材料を再検討してほしい。
◇新谷委員長
 ・積み替えた記録はないのか。
◇文化財課
 ・享保2年(1717)に東脇櫓が壊れたという記録がある。石垣がどのくらい壊れたかは分からない。

 *以上の意見から分かりますように、伝統工法に対する感嘆の声が次々にあがりました。なぜ地震に強いのか、分からないから不安視するのではなく、地震に耐えたという実績から評価しようという姿勢の現れだといえます。この耐震構造も、根石の下まで調査していれば、もっと解明できたかもしれません。その点では調査不十分のまま工事を進めてきたということになります。それにしても、根石の上に直方体の石材を載せて安定地盤を作ろうとするこれまでの工法に対して、土木の専門家から疑問の声がだされたことの意味は大きいと思います。
 調査不十分ということでいえば、一期石垣についても、中途半端な状態で差し止めになっています。艮櫓のパイルの部分には一期石垣の遺構が存在する可能性が高いのですが、きっと遺構が出てきては困るのでしょう。艮櫓担当の観光交流課も、公園課もこれ以上、一期石垣の調査をやろうとしません。しかし、せっかくの機会に、あえて調査をしないことは大問題です。うっかりしていたということでは済まされません。それは意図的な行為だからです。ぜひこの機会に、万全の調査をして頂きたいものです。そうでないと、あとで調査不十分だったと、また指摘されることになるでしょう。  
 
 *なお、以上の新補石材と地盤に関する意見をふまえて、新谷委員長は次のように委員会の結論をまとめました。

◇新谷委員長
 ・これまでの基礎面につては地盤の問題が確かめられていないが、かなりの強度をもっている。
・新補材の形状について、大きくするのがよいということは工学の上では確定できていない。とすると、過去の配置通りに、元通りに作っていくということになる。
 ・破損石は取り除くが、新補材は旧材と同じ形状でという方向で進めばよい。

 *石材は大きければ安全だとは必ずしもいえない、伝統工法の実績を評価しようという結論です。ようやく、文化財としての石垣修復の原点に立ち戻ることができました。この基本に立って、全国の修復モデルとなるように、市当局にもご努力をお願いしたいと思います。

 しかし、すでに積んだ部分は仕方がないかどうか、もう少し議論をして頂きたいと思います。発言のなかにあったように、一番大事な3段目までとするか、それともすでに積んだ部分には目をつむるとするかでは、石垣の評価に大きな違いが出てきます。しかし本来ならば、根石を堀りあげて安定地盤を構築し、その上に原状通りに復元するということが最良の選択肢ではないでしょうか。

一期石垣の埋め戻しについて

 一期石垣については、公園課から、検出された状態のまま埋め戻すということが確認されましたが、その施行方法として2案がだされました。1案は、掘削した粘性土で埋め戻し、密閉状態とする。2案は、砕石の保護層を設けたうえで掘削した粘性土を埋め戻すというものでした。
 これに対して委員からは、もともとなかった砕石を入れたりする必要はない、歴史的に出てきたままで封じ込めればよい、保護層は保護になるのか、長い年月のなかでかえっておかしくならないか、という意見が出され、1案でいくということになりました。
 さらに公園課からは、一期石垣の目地からの湧水に対応するため、底部に玉石による排水溝を設置したいとの提案がありました。これに対して、委員からは次々に疑問が声があがり、もともとなかったものを作る必要はないということで、公園課の提案は否定されました。

 この提案からわかるように、公園課は、水道(みずみち)に、かなりこだわっています。しかし水道ということでいえば、艮櫓の六本のパイルは、その壁面と土層との間が確実に水道になるでしょう。艮櫓のパイルは土層に大量に水が流れ込む水道を作るようなものです。石垣にとってもっとも危険なものは、このパイルなのです。心配しなければいけないのは、むしろこちらのほうです。もし公園課が本気で排水のことを心配するのであれば、パイルなどを打ち込ませてはいけないのではないでしょうか。石垣の安全のためには艮櫓を建設してはいけないと、公園課は思い切って言うべきではないでしょうか。

 それとも、うがった見方をすれば、ここで提案した排水溝は一期石垣のためのものではなく、一期石垣背面を貫いて設置される六本のパイルのためだったのでしょうか。一期石垣に砕石による保護層を作るというのも、本当は排水機能をねらっていたのではないでしょうか。そうであれば、パイル用の水道は、この委員会で否定されたことになります。艮櫓を建てる条件は、ますます悪くなりました。
 石垣を元通りに復元すればするほど、艮櫓は建てられなくなってきます。まさしく正しい方向です。

 こうした委員会の動きをみていると、歴史的にもとあった通りに修復するという考え方が、一気に委員の方々の判断の基本になったことが伺えます。素晴らしいことです。
 専門家のこうした意見を排除し、艮櫓新築を強行するために旧委員会を解散させたのでしょうが、それが裏目に出て、こうした事態に立ち至りました。今後は市当局も、これまでの経緯を真摯に反省して、艮櫓新築を断念し、後世にも評価されるような石垣修復工事に取り組まれることを切に期待します。

   

 


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TOSHIAKI Yanagihara tyana@sal.tohoku.ac.jp