(文責:平川 新)
◇石垣専門委員会、波乱の幕開け
第1回目の石垣修復工事専門委員会が、6月22日の午前10時から開催されました。最初から波乱の幕開けでした。どういうわけか、司会が10時になる前から開会したため、10時に傍聴席に入った市民は、助役の挨拶を聞くことができませんでした。市民は市当局や委員の一言一句を聞くために傍聴していますので、市民からこれに抗議の声があがりました。事務当局は、この挨拶のあとに開会だという奇妙な弁解をしますので、素直に謝罪して次回からは気を付けますとなぜいえないのか、とさらに強く抗議される始末でした。のっけからお粗末な次第です。
◇設置要綱に委員から異論
最初に当局から委員会設置要綱について説明がありました。しかし、早くも北垣聡一郎委員からクレームがつけられました。「要綱には、前委員会の調査検討結果を考慮し、とあるが、未解決の問題がたくさんある。それらをどうするのか?。本委員会の意見は参考意見なのか、然るべく反映させるのか?。単なる指導助言では委員会をやる意味がない。どうなのか?」
のっけから強烈なパンチでした。これに対して建設局長は、「安全性に配慮しながら伝統工法で進める。さらに検討したいということであれば、検討項目に入れてもよいが、基本的な所は理解を頂きたい。前委員会では一定の方向が出たと理解している」と答えておりました。「基本的な所」「一定の方向」というのは、要するに直方体の石積み問題を含めた現在進行中の工法のことでしょうが、こういう問題が検討されていないという指摘なのに、「ご理解頂きたい」の一点張りでは、話になりませんね。
続けて、鈴木啓委員から、「この要綱で修復工事をやると、石垣は文化財ではなくなる。第2条の(1)には、石垣の安全性確保のための工事方法に関すること、(2)には、前号に規定する事項を基本としつつ、伝統工法としての石積み技法をできる限り活かした工事方法に関すること、とあるが、軸足は文化財におくべきだ。要綱を改正して(1)と(2)の順番を入れ替えるべきだ」との批判がありました。
建設局長は、「下に市道が走っているので安全性を確保しなければならない。文化財を十分に意識しながら安全性を確保したい」と答えておりました。意識はするけど尊重していないのですよね、局長さん。
北垣委員からはさらに、「渡辺前委員が欠員のため、歴史学から後任を補充すべきだ」との意見が出されました。前委員会には歴史学者として渡辺信夫委員が参加していましたが、残念なことに今年の1月に逝去されたため、歴史学から委員が選任されていないのです。当然の意見ですね。当局は歴史学者はうるさくてかなわんとでも思っているのでしょうか。おかしなことをやるから意見を言わざるを得なくなるのですが…。
◇委員長に新谷委員を選出
新谷洋二委員長は挨拶で、「仙台城の石垣はバラエティに富んでいる。1期石垣は全国的にも稀だ」としつつも、「青葉山ローム層で石垣の体力が落ちている。重交通に耐えかねている。安全性と伝統工法をどうマッチングするか、全国でも一番難しい」と述べていました。そうです。だからこそ、ちゃんと議論して頂きたいのです。
◇写真撮影と録音を許可
議事が進行しはじめましたので傍聴席から写真を撮ったところ、係員が飛んできて、写真撮影は禁止されていますと、壁に貼られた紙を示しながら私を制止しました。気が付かなかったのですが、たしかに、「写真撮影・録音等は付属機関の許可なく行ってはならない」という趣旨の掲示がありました。そこで私は挙手をして委員長に、「委員会の許可を受ければ写真撮影や録音ができると書いてあるので、許可してほしい」と発言しました。委員長は驚いておられましたが、当局が、「議事録も公開されるので認めないでほしい」という趣旨の、なんともお役人的な発言をしました。これに対して別な市民が「マスコミも許可されているのだから、市民にも許可すべきだ。委員会は市当局のこうした発言に惑わされずに、独自に判断をしてほしい」と強調した結果、委員のなかからも「許可してよいのではないか」との発言があり、委員会として撮影・録音を認めることになりました。そのさい委員長は、「市民の声を聞く機会ももたなければと思う」と発言されました。委員会と委員長の見識が示された場面でした。
それにしても委員長に対して、許可しないようにと平然と言ってのける神経には驚きましたね。挨拶のなかで助役等が公開と透明性を繰り返し言っているのですから、それに見合った姿勢をみせたほうがよいですよ。そうでないと、口先だけになってしまいます。お役所の筋にこだわるのではなく、もっと柔軟に対応されたほうがよいと思いますね。これを先例として、他の委員会でも撮影・録音の許可を、役所にではなく、委員会にどんどん求めていったほうがよさそうです。
◇工法についてー各委員の意見
公園課から、これまでの経緯について説明がありましたが、あわせて、30年以内に98%の確率で地震がおきると予測されており、これに耐えうるように修復しているので、ぜひ理解してほしいと強調していました。地震を持ち出せば何でも正当化できると考えているようです。三期石垣は三百年以上にわたり何度も大きな地震に耐えてきたのですけどね。
○北垣委員の意見
公園課の説明に対して北垣委員から、いくつもの重大な指摘がなされました。
・石垣の基本勾配は伝統技術のなかでも最も重要。江戸期のノリ・ソリについてデータを出すように。
・旧材の長さに関するデータを出すように。
・積み直した箇所の旧材と新材の配置図を出すように。
・新補石材の形について前委員会では議論されていない。
・これまでに聞いた幾人かの石工棟梁の話では(仙台城修復の棟梁ではない)、根石から2〜3段目が一番重要でこれが全体に影響する、だから面(表)や跡(尻)の形状にこだわる、ということだった。
・新材は直方体で旧材は控えが短く四角錐形。これを積み重ねた場合、何らかの変化が起きないかと心配だ。
・万治元年(1658)の江戸城普請帳には、石材の面・控(長さ)・跡(尻)を明記している。角石は直方体だが、平石は面(ツラ)が2尺3寸四方であるのに対し、跡(尻)は1尺2寸四方にすると書いてある。尻をちゃんと削るのが伝統工法である。
・直方体の新補石材を積んでしまってからでは困る。今のうちに十分に検討する必要がある。
江戸城の仕様書に、石材の形について、尻はほぼ半分に削ると明記されていることの意味は重要ですね。こうした石垣作法が完成していたことを示します。直方体のほうが強いなどと単純に考えずに、なぜ江戸時代に尻を削る形をあみだしたのか、公園課はもっと真剣に考えてほしいですね。
また、前委員会で新補石材の形状について何も議論しなかったという指摘も重大です。守る会の市長宛質問書でもこの点を問題にしていますが、公的な委員会を無視して、公園課と請負業者、それに特定の前委員が独断的にやったということが、これで裏付けられました。
○鈴木委員の意見
鈴木委員からは、以下のような指摘がありました。
・石が折れた箇所と、はらんだ箇所は、場所が違う
・木っ端石は折れても平気だ。これを評価すべきだ。
・従来の石垣の裏込めは最大で8mもある。修復工事では3mしかとってない。上からの重圧は、裏込めにかかる。だからこれに耐えられるように8mの裏込めを設けた。3mでは不安だ。
・階段状石列も有効だ。これは構造材である。我妻仁論文(「仙台城本丸跡石垣における階段状石列の構造と役割」宮城考古学3号)の理解でよい。この論文を謙虚に受けとめるべきだ。
・形の違う石材を部分的に置くと全体のバランスを崩す。地震のときに異なった反応をする。
・白河城では集中豪雨で崩れたのでコンクリートを使って修復したが、1か月で崩れた。
・現代技術をあまり過信してはいけない。
・伝統工法を評価し信頼して、文化財としての工事をしなければいけない。同じものを復元すべきだ。
・安全第一だから変えることもありえるが、ちゃんと記録しなければいけない。
なかなか大変な指摘ですね。木っ端石の役割を軽視する公園課や五味盛重委員の考え方に対する痛烈な批判です。公園課は、五味委員から新補石材は直方体でよいとの指導を受けたことを明らかにしています。直方体の石材は、木っ端石の役割を評価しない工法なのです。
階段状石列については、我妻論文を評価するようにと指摘されています。当然ですね。我妻さんは元文化財課の職員で石垣発掘に携わった方です。石列について、とてもよい論文をお書きになられました。石列は、石垣構築の過程では、工事の迅速化・合理化を助長し、構築後は排水や盛土流出の防止など、耐久性強化の役割を果たしていると指摘しています。
じつは守る会でも、石列がどう復元されるのか心配でした。現在進行中の工事では、裏込め部分の積み上げも進行し、石列の下部の部分に到達しているようにみえます。しかし、復元しようとする動きが見えませんでした。これに気づいた守る会は今月中旬、公園課に対して、なぜ石列を復元しないのかと電話で尋ねたところ、石列の下部には乱雑な部分もあるのでそこは復元しないが、上部は復元するという返事でした。しかし、残すか残さないかは、公園課が判断するのではなく委員会で検討すべきではないかと抗議しておきました。今回提示された議題のなかに、「階段状石列について」という項目がありましたので、委員会での検討対象になっていますが、もし新委員会が設置されなければ、これまた独断で復元の対象から除外された可能性すらありました。
なお、電話でのやりとりのなかで公園課は、石列について次のように評価していると話しました。
・文化財課の解釈は間違いだ。
・崩れた石を城外に持ち出すのは大変なので、仮設的に積んだだけと理解している、
・石列はバラバラであり面をなしてないと土留めにはならない、
・石列には下がない。上だけ土留めをしてもダメだ。
・盛土しやすいように一時的な土留めとして使ったにすぎない
・乱雑な部分もある。これは捨て石ではないか。
・三期の対策工で復元しない部分もある。
構造的に重要だというのが我妻論文の指摘なのですが、公園課はこれを否定して、たいして役に立ってないと解釈をしているわけです。分析結果を軽視していますが、これは伝統工法を軽視する姿勢に通じていると思います。伝統工法の特徴を活かしながらということではなく、形を少しばかり残しておけばよいという考えなのでしょうか。
○浅田委員の意見
浅田秋江委員からは、なかなか含蓄のある発言がありました。
・事務局は安全が先立っている。本来、伝統工法を守りながら安全性を確保するという考えでなければいけない。
・今の石垣は三百年続いたのだから、頭のなかではよく分かる。
・但し背面のローム層がかなり劣化している。三百年たっていると補強が必要。
・修復工事にはフィロソフィーがなくてはいけない。
・伝統工法と安全性は対立するものではない。
何らかの補強が必要だというのは、そうかもしれません。しかし浅田委員が指摘されたように、「伝統工法を守りながら」どう補強するか、という点こそが重要だと思います。ぜひこのような姿勢で議論を深めて頂きたいと思います。補強が「主」で伝統工法が「従」になってしまっては、もはや伝統工法ではありません。
○五味委員の意見
五味委員は、浅田委員の意見に賛意を表しながら、三期の石垣のなかにも1割程度の力石が入っていることを強調しました。つまり、全ての石の控えが細いわけではないという主張です。だから直方体の新補石材でよいということのように受け取れる発言でした。
もしそうであれば、この論理は奇妙ですね。力石が必要であれば、三期の力石の配置の状態を分析し、それに即して配置すればよいことです。三期に力石があることをいくら強調しても、現在の直方体の新補石材の形状や配置の仕方を正当化する根拠にはなりません。
○柳沢委員の意見
柳沢英司委員の発言です。
・仙台には直下型の地震の可能性がある。
・後世に笑われないようなしっかりとしたものを作らなければいけない。
・伝統工法は優れた点ばかりではない。明らかに欠陥もある。その辺の調整が必要だ。
まさしく「後世に笑われない」ことが大切だと思います。また、「明らかな欠陥」とは何か、明確にして頂く必要もあります。
○新谷委員長の意見
新谷委員長の発言も興味深いものでした。
・石垣は地震や水害による崩壊の歴史だった。たくさんの石垣を見てきたが、基礎がよければ大半は古いものが残っている。全部崩れたのは基礎が悪かったところだ。
・仙台城のA〜D面は、それぞれに問題が違うだろう。いろいろなやり方を考える必要がある。ちゃんと議論していかなければいけない。
・私はこれまで第三者として仙台城のことを勉強してきた。仙台城は土質も悪く、高い崖地にある。30年代以降、重交通で揺すられてきた。立地条件も悪いので、たいへんなことだということは、よく分かる。
・私は前から、早くバイパスを作れと言ってきたが、まだ実現していない。
・350歳の老人を、どう再生させるか。20歳の若者にするのか、350歳の老人に戻すのか。その点をもっと話し合わなければいけない
・石垣を解体したので、筋肉(土質)は4分の1になった。これを再生させる技術が必要だ。
・伝統工法は土木学会では、まだ研究されてない。
・石垣の重要文化財はまだない。土木文化財のあり方は悲しい状態だ。
・土木の本には、2〜3mなら空積みでもよいが、それ以上はダメだと書いてある。
*「空積み」→裏込めにコンクリートを使用しない工法のこと
・現在、伝統技術はなくなっている。
・伝統技術は数値では計れない。現代工学に対して伝統技術が立ち向かうだけのものはない。
・土木学会は今年から近世以前のものについても調べようとしている。
・この委員会でも議論が分かれているが、融和させていかなければならない。
・今のままでは石垣が泣いている。
まさしく石垣は泣き、政宗も落胆していることでしょう。よくよく検討して納得できる結論を出して頂きたいと思います。
委員長の発言で少し気になったのは、「20歳の若者にするのか、350歳の老人に戻すのか」という点です。伝統工法は350歳の老人で、現代工法は20歳の若者という比喩にも聞こえました。真意は不明ですが、もしそうであれば、20歳の若者のほうが強そうだと受けとめられかねません。しかし、その20歳の若者が350歳まで生き延びるという保証はどこにもありません。また350歳の老人であってもオーバーホールをすることで、骨格・構造は変わらずに若返りできるとも言えます。
委員長の発言で大切だと思うのは、伝統工法の研究が進んでいないので、現代工学のように数値でその力学を示すことはできないという指摘です。そうだと思います。これは委員長も指摘されるように研究が立ち後れているだけであって、現代工法よりも伝統工法が劣っていることを示すものではありません。比較の物差しがない以上、現代工法だから優秀だということにはなりません。その点で、委員長が土木文化財の研究の遅れを指摘し、研究の必要性を強調されたことは納得がいきます。
文化財課の発掘と検討によって、伝統工法の深い知恵と複雑な構造が明らかになってきました。この成果を尊重していくことが大切ではないでしょうか。
◇委員会に「守る会」から要望書を提出
委員会の閉会が宣言された直後、守る会の代表世話人である平川が挙手をして、「仙台市民および歴史研究者として、この委員会に要望書を提出したいのでお認め下さい」と発言し、委員長の許可を得て要望書を提出しました。そのさい、「現在の修復工事のあり方に大きな危惧を抱いています。ぜひ要望書を次回の委員会でご検討頂き、委員会としての見解を明らかにしてほしい」と求めました。これに対して委員長は、「次回に回答をというのは無理です。今後の委員会で、できるだけ回答になるような議論をしていくので、それを聞いていてほしい」と述べました。私たちの要望書には、いくつもの検討課題をあげていますが、前向きに受けとめてくださった委員長のこの発言には好感がもてました。
◇傍聴を終えて
以上、第1回委員会の傍聴レポートです。メモが不十分ですので真意を伝えていない部分や誤った部分があるかもしれません。その点は、ご指摘下さい。いずれ議事録が公表されるでしょうから、そちらで各委員のご発言を確認できるようになると思います。
傍聴を終えての第一の感想は、これまで「守る会」が指摘したことは間違いではなかったということでした。私たちは文献史学が専門であって、石垣という構造物については素人同然でした。しかし、今の工法はどうみてもおかしいのではないかということで、悩みながらも素朴な疑問を発してきたわけです。この委員会で専門家の方々から似たような指摘があり、正直なところ、ほっとしています。
ようやくまともな議論をできる場ができた、というのも実感です。本来なら、専門家によるこうした真摯な議論を積み上げ、ちゃんとした方向性を確認したうえで修復工事に取りかかるべきでした。それだけに、前委員会では一度も議論されていない工法を内密に採用したり、前委員会を一方的に解散させた市当局の誤りが、はっきりと浮き彫りになったと思います。これで傷ついたのは公園課の職員の方々や現場の職人さんたちではなかったでしょうか。今度は、そのような過ちを犯さないようにして頂きたいと思います。
委員から次々に出された意見は、市当局にとって、相当に厳しいものだったと思います。工法の見直しや工事中断にまで向かう可能性も示されたからです。
市当局は、この委員会で議論され導かれた方向を、単に聞き置くということではなく、ちゃんと修復工事に反映させる責務があります。それを無視して強行すれば、それこそ取り返しのつかないことになるでしょう。
なお、前記した、「市民の声を聞く機会ももたなければと思う」という新谷委員長の発言は、これが実現されれば、開かれた委員会のあり方を示すもので、素晴らしいことです。それでこそ、この委員会は市民の信頼を得ることができると思います。ぜひそうした機会を委員会でお作り下さるよう、お願いをしたいと思います。
新谷委員長や委員の方々のご見識に期待したいと思います。
次回の委員会は7月12日に予定されています。ぜひ多くの市民の方々が傍聴に参加され、議論を見守ってくださるようお願い致します。